巷でよく耳にする「うつ病」。「こころの風邪」と言われることも多いうつ病ですが、10人に1人は生涯の中で罹患するというデータもあるくらい、とても身近な病気になっています。
しかし、一般的な風邪とは違って、高熱が出たり咳が出ていたり、目に見えて体調が悪くなっていくわけではないため、「怠けているだけだ」「やる気がないだけでしょ」と思われてしまいがちであることもまた事実です。そのため、治療に繋がりにくく、さらに病状を悪化、長期化してしまう原因にもなっています。
今回は、うつ病の種類とその症状について、わかりやすく解説しながら、職場や仕事で与える影響についてお話をしていこうと思います。
うつ病は3種類ある
うつ病の症状について語る前に、皆さんは、「うつ病」には種類があるのをご存知でしょうか。うつ病は大きく分けて、2つの症状に分類されます。
一つ目は、「うつ病」と聞いてよくイメージされることの多い、抑うつ状態だけが続いていく「大うつ病性障害(単極性うつ病)」。
二つ目は、抑うつ状態と躁(そう)状態の両方が起こる「双極性障害」の2種類があると言われています。
近年では三つ目として、このどちらにも属さない、「非定型うつ病(新型うつ病)」というものまで現れるようになり、その様相はさまざまです。
各種類のうつ病について、主な症状や職場・仕事への影響について、元看護師の生の声を交えて解説していきます。
1.大うつ病性障害(単極性うつ病)
主な症状
大うつ病性障害の症状としては、抑うつ状態が続き、他人や物事への興味や関心が極端に落ちてしまったり、不眠や食欲不振で体重が減少したりなどの身体症状が出ることがあります。また疲れやすくやる気が起きなかったり、自分は価値のない人間だと思ってしまうことも。集中力が続かず、これまで出来ていたことが持続して行うことが困難な状況になったり、「死んでしまいたい」という自殺願望や希死念慮などの症状が出現したりします。
仕事や職場への影響
そのため仕事や職場などでは、ミスが多くなったり、上の空であることも増えていきます。また、不眠で寝不足状態が続くために、勤務中にうたた寝をしたり、遅刻や欠勤をすることが多くなったりという問題が起こるようになります。
私が精神科看護師として病棟で出会った患者さんは、起床時間になっても起きることができず、朝食や薬の時間も眠り続けていた方もいました。昼過ぎになりようやく起きだして活動を始めるため、生活リズムが崩れやすくなる傾向にあるのも、この疾患の特徴の一つかもしれません。
2. 双極性障害
主な症状
「躁うつ病」とも呼ばれていた疾患で、気分が高揚している状態(躁状態)と抑うつ状態を繰り返します。躁状態の時は、気分の高まりが強く、猛烈な勢いで話出して止まらなくなったり、不眠不休で動き回ったり、金銭面では大きな買い物を突発的に行ったりして、散財したり借金を背負ってしまうこともあります。そのため、財産や社会的な信用を大きく損なうこともあり、これまで築きあげてきたことが一気に崩れてしまうことも少なくありません。
双極性障害にはⅠ型とⅡ型があり、I型では激しい躁状態を引き起こすため、「何でもできるような気がする」というのも特徴の一つです。そのため、仕事や職場環境では、周囲の人に耳を貸さずに先走った行動をしてしまったり、無計画に物事を進めて失敗してしまったりということが起こることがあります。一方Ⅱ型では、Ⅰ型に比べて、躁状態が軽く、抑うつ状態が重いのが特徴です。この抑うつ状態が大うつ病性障害に非常によく似ているため、誤診に繋がる可能性が非常に高いのも問題の一つになっています。大うつ病性障害と双極性障害では、似て非なるものであるため、治療法も異なってきます。そのため、誤診を防いで適切な診断を行う必要があります。
仕事や職場への影響
仕事や職場に与える影響としては、これまで関心があったことにも興味を示さなくなったり、仕事が手につかなくなる。気持ちがあっても朝起き上がることが出来なくなり、出勤自体が困難になるなどの問題が起こることがあります。
実際、双極性障害の方にお話を聞くと、原因はわからないけれど、「起き上がりたくても全く身体が言うことを聞かない。」「まるで鉛のように身体が重く感じる。」といった声も聞かれました。
3. 非定型うつ病(新型うつ病)
主な症状
大うつ病性障害にも双極性障害ともつかない、「非定型うつ病」というものも近年では話題になっています。この非定型うつ病は、気分の変動が激しく、楽しいことにはしっかりと反応できる反面、仕事などやらなければならない場面では抑うつ状態になるという特徴があります。そのため、仕事や学校に行くときになると、気分が落ち込んでしまい、仕事が手につかなくなる、出勤自体が困難になるなどの行動が出てくることがあります。
具体的な例を出すと、好きな歌手のライブや飲み会には参加するのに、仕事には来られないという現象が起き、周囲からは「甘えている」「怠けている」などとレッテルが貼られやすいのも、この疾患の抱える問題とも言われています。
仕事や職場への影響
私の同僚でもこの非定型うつ病に罹患した方がいましたが、職場の飲み会には参加するのに、仕事になると職場まで来られず、欠勤が続くということがありました。当然、周囲からは「甘えている。」などと言われて、ますます仕事に来られないという状況にまでなってしまいました。医療現場のスタッフでさえ、こういった反応をされるのですから、一般社会では当然誤解されやすいのは言うまでもありません。
うつ病に対する当事者・その周囲がとるべき姿勢
当事者については、エネルギーが枯渇した状況が続いている、何をするにもやる気が起きない、眠れない、食欲がない、気分の浮き沈みが激しいなど、「いつもとちょっと違うな…」と思ったら、早めの休息、受診を心がけるようにしていきましょう。
また後述するようにうつ病からの回復では、周囲の協力も重要であるため、ひとりで抱え込まずに、うまく周囲の人へも相談していくとよいでしょう。
職場における同僚や人事担当者(周囲の人たち)は、うつ病の病態の複雑さゆえ、その症状や言動を誤解することで二次的に当事者を傷つけていくことがあります。うつ病を発症した社員の回復のためには、周囲の理解も必要不可欠ですので、ぜひ知識を身に付け、専門家の判断も仰ぎながら対処するようにしましょう。
まとめ、注意事項
いかがだったでしょうか。「うつ病」と一口に言ってもその病態はさまざまで、重症度も人によって異なります。
当事者や周囲の人たちが適切な行動や判断をとることができ、多くの人がうつ病から早期に回復できる社会になるよう、ぜひ今後も継続して知識を身に付けていってください。
※本記事は、福祉・医療関係者のアドバイスのもと執筆しておりますが、内容の正確性に関しては保証しかねます。ご参考までにお読みくだされば幸いです。
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